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Mission

運用フェーズでZEBを育てる ― ライフサイクルで価値を高めるICTの活用 ―

2026年03月31日

認知が高まるZEB(ゼブ:Net Zero Energy Building)ですが、その評価の多くは「新築時の認証取得」や「設備改修時」といったタイミングで完結してしまっているのが実状です。しかし、ZEBの本来の価値は建物が完成した瞬間に決まるものではありません、むしろ、その後の運用段階においてこそ高まっていきます。NTTファシリティーズは、企画・設計から施工、運営管理、さらにはICTソリューションを通じた価値向上まで一気通貫で担う総合ファシリティマネジメント企業です。当社が提唱する「ライフサイクル視点のZEBであるFACILITIES ZEB(以下、F-ZEB)」は、新築の建物だけでなく、既存アセットに対してもエネルギー性能の継続的な最適化を実現します。その実現を支えているのが、データ活用をはじめとするICT技術の活用です。本稿では、F-ZEBの概念とそれを支えるICTソリューションの全体像、そして具体的な実践事例を紹介します。

竣工後から始まるF-ZEBという考え方

日本におけるZEB化の取り組みは、大きく二つのパターンに集約されます。一つは、新築時におけるZEB認証の取得を目標とするもの。もう一つは、設備改修のタイミングでZEB関連の認証や評価を受けるものです。こうした視点はいずれもZEBを「点」として捉えており、その後の運用フェーズにおけるエネルギー性能の維持・向上といった「線」として捉えられていません。

ZEB推進におけるもう一つの課題が、設計・施工・維持管理のプロセス間に生じやすい断絶です。一般的に、建物の設計・施工を担う事業者は建物の完成をもって契約上の役割を終えるケースが多く、その後は運用を担う管理会社へと引き継がれます。しかし、設計趣旨(建築設備が要求性能を発揮するため、システムや制御の意図を明文化したもの)が十分に共有されないまま運用が始まる場合もあり、結果としてエネルギー性能の最適化が継続的に行われにくい状況が見られます。

さらに、この分業構造の中では、設備最適化を誰が主体的に担うのかが明確になりにくいという側面もあります。特定の関係者の課題というよりも、業界全体の構造に起因する潜在的な課題といえるでしょう。こうした背景が、ライフサイクル視点でのZEB化の推進を難しくしている側面も否定できません。こうした課題を背景に、国土交通省も国レベルでのZEB化推進に取り組んでいます。

当社は、ZEBを設計・施工・運用・維持管理というライフサイクルを通じて継続的に取り組むものと捉え、「F-ZEB」というコンセプトを打ち出しています。設計・施工・維持管理に加え、ICTまでを自社で一気通貫に担える国内でも数少ない事業者のひとつです。ライフサイクルにおける断絶を解消し、ICT活用を並行して進めること。それがF-ZEB実現への道筋です。

F-ZEBにおいて不可欠であるICT技術は、NTTグループとして長年培ってきたビルの中央監視装置の開発や時代に合わせた先端ビル通信の活用、通信インフラ管理のノウハウが礎となっています。また、ミッションクリティカルな業務を担う通信局舎やデータセンターの運営実績は機器開発にも活かされています。

F-ZEBにおいて不可欠なコミッショニング

F-ZEBにおける重要な要素の一つが空調設備の運用・改修です。ビルの空調設備とそのシステムは、オーケストラに例えられます。パッケージ化されたシンプルな操作性の家庭用エアコンとは異なり、ビルの空調設備は、熱源・ポンプ・エアハンドリングユニットなど、異なる役割を持つ設備が連携し、調和することで快適な温度環境を実現しています。

さらに、空調設備の内部制御には数十項目におよぶ設定値が存在します。機械自体が正常に稼働していても、これらの設定値が適切にチューニングされていなければ、本来の性能を十分に発揮できません。竣工時の試運転を終えた後も、ビルが使われ始めた後の運用の実態を反映した、設定値の最適化は継続的に取り組むべき課題です。

この課題に応えるのが「コミッショニング」というプロセスです。
コミッショニングとは、建築設備が要求性能通りの運転を実現する品質管理のプロセスとなります。関係するステークホルダー間で要求性能について文章記録を記録し、合意形成を図り進めます。具体的なアプローチとしては、①建物設備の稼働データを取得し、②性能評価を行い、③チューニングを実施し、④継続的にモニタリングし、⑤その結果を運用改善や設備改修にフィードバックする、という一連のサイクルを指します。単なる運用時の省エネにとどまらず、設備の良し悪しを見極め、次の設計改善へとつなげるプロセスまでを含めた取り組みです。

コミッショニングは、温度や湿度だけでなく、数千から数万点におよぶ建物データからなり、インバーター出力などの空調稼働データなど、扱う情報が膨大になるため、ICTの活用が不可欠となります。とりわけ「BAS(ビルディングオートメーションシステム)」「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)」と呼ばれる中央監視装置に蓄積されたデータの活用が極めて重要な位置づけとなります。

加えて、「外気負荷の適正化」も従来から重要なテーマです。建築物はその構造から、外気を室内に取り入れます。近年は気候変動の影響で外気条件がより厳しくなっており、外気流入量が過大になれば、空調負荷の増大とエネルギー消費の上昇を招きます。だからこそ、継続的なデータ監視と適正化が欠かせません。

F-ZEBにおけるコミッショニング

F-ZEBを支えるNTTファシリティーズのICTソリューション

ビルのICT技術は、この40年間で大きく進化してきました。1980年代に登場した「BAS(ビルディングオートメーションシステム)、以下BAS」は、設備管理の自動化を実現し、1990年代後半から2000年代にかけては「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)、以下BEMS」が普及、エネルギー管理を高度化しました。さらに2010年代にはクラウド化が進み、遠隔からのエネルギー管理が可能なクラウドBEMSが主流となっています。

そして現在、次の進化として注目されているのが「ビルOS」という概念です。ビル内の設備・データ・アプリケーションを統合し、全体を横断的に管理する基盤を指し、設備単体の最適化ではなく、建物全体をデータ管理するためのプラットフォームです。当社はBAS・BEMSを黎明期から手がけてきた先駆者として、ビルOSの開発にも取り組んでおります。

その中核を担うのが、簡易ビルOSである「FITBEMS」です。これは、データ連携に特化し、建物内の設備と遠隔からそれをコントロールするデジタルアプリケーションをつなぐ橋渡しの役割を担います。

既存建物のスマートビル化を促進する簡易ビルOS

FITBEMSは単なる監視・制御システムにとどまらない特徴があります。AI空調制御、GHG排出量の可視化、ロボット連携、コミッショニングなど、複数の機能を統合し、新たな価値を生み出すことで、建物の価値を継続的に高める仕組みです。

従来のBAS・BEMSには、特定メーカーに依存する「ベンダーロック」という課題がありました。特定メーカーの設備を導入すると、そのメーカー由来のシステムしか利用できない状況が発生していたのです。当社は、ベンダーフリーの設計思想を採用し、マルチベンダーAPIによって多様な設備やサービスと柔軟に連携できる環境を提供しています。フルスタックの大規模ビルOSとは異なり、既存アセットや中小規模のビルにも導入しやすい、軽量なビルOSを実現している点も特長です。

さらに、研究開発部門では「快適性を保ちながら省エネを実現する」というコンセプトのもと、AI空調制御システムを開発しました。AI空調制御では、BASやBEMSから集まるデータをクラウド上に集積し、快適かつ最適な空調設定温度をAIが自動的に計算し制御します。属人的かつ感覚的になりがちな温度設定を排除し、快適性と省エネ性を両立する仕組みです。例えば、過剰な温度設定によって発生する無駄なエネルギー消費を抑制し、合理的な運用へと導きます。

NTTファシリティーズのUXアプリケーション:AIを活用した空調制御

ICT活用によるF-ZEB関連の取り組み事例

当社が自社テナントとして入居する「グランパーク」では、AI空調制御とデータを活用したコミッショニングの取り組みが行われています。クラウドBEMSに集積したデータを活用することで、オフィスエリアの省エネ効果を最大化しました。

ここから得られた知見は、「コミッショニングとAI空調制御を組み合わせることで、運用時の省エネルギー化の最大化が図れる」という気づきです。車で例えると、コミッショニングは、設備を本来あるべき状態へと整える「車検」のような役割を果たし、AI空調制御はアクセルワークの最適化を実現します。この2つを組み合わせることで、はじめて高度な最適化が機能します。

AI空調制御はITベンダーが次々と参入する競争領域ですが、コミッショニングという地道な取り組みとセットで実践できる事業者は限られています。コミッショニング×AI空調制御は、設計・維持管理・ICTのすべてを担うNTTファシリティーズだからこそ実現できるアプローチだといえます。

また、北海道エリアの当社が維持管理業務を担う施設(下図Bビル)では、熱源設備の更改タイミングに合わせてコミッショニングを提案し、データ活用に基づくダウンサイジングを実現しました。

従来、設備改修において能力を縮小することはリスクが高いとされてきました。十分な運用データがなければ、現状能力が過剰なのかを客観的に評価できません。そのため、能力を下げすぎて性能不足に陥るリスクを避けるべく、「とりあえず同等能力で更新する」という判断が一般的だったのです。

しかしこのビルでは、ビル側の取り組みとして中央監視装置に10年間分のデータが蓄積されていました。そのデータを分析することで、現状設備能力に余裕があることが判明し、合理的なダウンサイジングを実施することができたのです。エビデンスベースの取り組みに対して、オーナーの納得感と安心感は非常に大きく、巨額投資に対しても、確信を持った意思決定が可能となった事例です。

運用段階のモニタリングと改善事例

コミッショニングが有効なアプローチであることは明らかですが、現状では専門知識が必要なこと、また診断作業に多大な人手を要するため、大規模展開が難しいという課題もあります。この課題を解決するために、NTTファシリティーズは東京大学との共同研究で、コミッショニングにおける診断手法の自動化にも取り組んでいます。

研究対象の一つであるエアハンドリングユニットでは、NTTアーバンソリューションズグループ保有ビルの実データ分析により、夏場にもかかわらず暖房の要求信号が出続けるという不具合なども検知されました。このような異常動作を自動的に検知し、修正前後のエネルギー消費ベースラインを算出、省エネポテンシャルを定量化したうえで対策を立案・検証するという一連のプロセスを自動化させることを目指しています。

【まとめ】建物の未来を育てるICTの力

これまでBAS・BEMSは、主にビルオーナーや維持管理業者だけを対象とした仕組みでした。一方、ビルOSはテナントを含む幅広いステークホルダーへの価値提供を可能にします。

企業のESGやIR開示において非財務情報の重要性が高まる中、ビルのエネルギーデータはCO2排出量算定の基礎データとして活用できます。NTTファシリティーズはGHGプロトコルの国際基準に準拠した可視化を通じて、ビルに関わるステークホルダーの持続可能な経営を支援しています。

ビルは竣工時点が完成形ではなく、その後も時間の経過や外部環境の影響を受けながら変化していきます。気候変動などの要因も加わる中、本来の環境性能を発揮し続けるためには、「作る」だけでなく「守り」、そして「高め」続ける取り組みが欠かせません。

NTTファシリティーズが目指すF-ZEBとは「価値を高め続ける」ことにほかなりません。建物を使い続けるという視点に、環境性能を継続的に向上させるという発想を重ねることで、ZEBは一過性の目標ではなく、建物と共に進化する取り組みとなります。

その進化を支える基盤がICTです。NTTファシリティーズは、データを活かし、運用を磨き続けることで、建物の未来を育てていきます。


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